2014/11/18

sesquiなんちゃら

中世後期の音楽理論書を読んでいると協和音程と不協和音程とは何か、という論述に出会うことが多い。しかも、その説明にかなりの紙面を割いている場合も珍しくない。最近よく例に出しているMarchetto da PadovaのLucidariumなどもその1例だ。音程に関してそれぞれに名前をつけて、その名前の由来、なぜそれが協和音程なのかを事細かに説明していく。正直、読んでて眠くなることがないわけでもない。いや、実際眠くなる(笑

とりあえず読んでいくと結局、協和音程が協和音程足りえるとする最も確固たる理論的土台は数比ということになる。しかしこの数比を表すのにも彼らはそれ用の用語を使ってくる。慣れないと混乱するのだが、実は法則は簡単です。
音程の5度は diapente という名前なのだが、これは sesquialtera つまり 3:2 の音程関係だ。3:2 というのは周波数比がこの比になるということだ。音程の4度は sesquitercia つまり 4:3 だ。ちなみに全音は sesquioctava になる。

とまあ一々長ったらしい比を表す用語が出てくるわけだが、よく見ればどれも
sesqui + うんちゃら
という形になっているだろう。ではこの sesqui の使い方がわかればもう後は怖くないということだ。

sesqui というのは例えば Lucidarium の中では「全体」と表現される。何の全体なのかは sesqui の後に続く うんちゃら の部分を見ればわかるようになっている。

分かり易い sesquitercia から例として見ていく。
この場合、sesqui + tercia ということなわけだが、tercia というのは 3分の1という意味だ。スペイン語やイタリア語の terzo と同じ。つまり 全体+3分の1という意味になる。で、この全体が何を意味するかというと、つまり 3分の3=1 ということになる。
であるので、sesqui-tercia とは 1+1/3=4/3 つまり 4:3 ということになる。

では sesquiALTERA とは何だろう。この Altera とはイタリア語の altro, フランス語の autre, スペイン語の otro という意味。なんとなく似ているでしょう?特にイタリア語。
つまり、「もう一方の」という意味なのです。で、「もう一方」というからには選択肢は2つなわけで、これを数字に直すと 1/2 ということになるわけです。
なので、sesqui-altera は 1+1/2=3/2 つまり 3:2 になるということです。

これでなんとなく、法則がつかめたはず。とにかく、sesqui を見かけたらそれに続く単語に注目すればいいわけです。そして、少しだけ特にイタリア語の数字の数え方、序数に慣れておくとすんなり理解できるはずですし、見たことがない数比がsesquiに従ってかかれたものに遭遇しても凡そ理解ができます。

sesquialtera > 3:2
sesquitercia > 4:3
sesquiquarta > 5:4
sesquiquinta > 6:5
sesquisexta > 7:6
sesquiseptima > 8:7
sesquioctava > 9:8...

と理論上どこまでも繋げていけます。

まとめると

sesqui N = (N+1) / N

ということになる。ちなみにこういった比を Superparticular ratio と呼ぶ。長々と法則を説明したが、Lucidariumの中に既に記述があるように (7.1.8) superparticular というのは「小さいほうの数とそれに1を足した数の関係」ということになるわけです。

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このsuperparticular ratio つまり sesqui--- に加えて、superpartient ratio というものも存在している。

再び例を挙げて説明していく
superbipartiens というのは 5:3 のことになる。どういう仕組みになっているのか、sesquiのときと同じように単語を分解すると

super bi partiens

となる。
この bi は 自転車の英語 bicycle (bi 2つの + cycle 車輪)とか、バイリンガル bilingual (bi 2つの + lingual 言語)と同じで2つという意味。superpartiens はsesquiと同様、全体+ という意味になるので、X/X+Y/Xということになる。このとき、数学的には常にこの法則が当てはまるのか私はわからないが、少なくとも中世音楽理論の中では、X=Y+1になる。
これを super bi partiens に当てはめると、bi なので既に述べたように Y=2、つまりX=3なので、
3/3+2/3=5/3 つまり 5:3 が出来上がるというわけ。

この法則に従えば supertripartiens がどのような数比を示すのかはすぐにわかる。
tri とは 英語の トライアングル triangle (tri 3つの + angle角)とか、ギリシャ神話に出てくる海の神が持っている三叉の戟 trident などからわかるように3を意味する。
なので先ほどの式に代入すればX=4なので
4/4+3/4=7/4 つまり 7:4 ということになる。

これもまとめておくと

N = A + 1
super A partiens = (N + A) / N

ということになる。これはsesquiよりもちょっと複雑かもしれない。

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以上、超文系人間による数学講座でした(笑



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