音楽史の授業などでも紹介されることがあるので、もしかしたら見たことがある人は多いのかもしれない。実際に鳴らしてみるとこんな感じになる。
変な音色なのと音律の調節まではやり方が分からないので平均律なのはご容赦いただこう。それとサーバーの関係で再生ボタンを押してから音が出るまで少し時間が掛かる場合がある模様(待っても再生しない場合はページを更新してください)。
中々不安を誘う響きではないだろうか。
この譜例は中世後期を通低して流れる対位法の原理の1つに忠実に従って書かれている。その原理とは「次の音程に最も近くなるようにしなさい」というもの。1番後ろの和音から見ていけばそうなっているのが分かるだろう。
8度の前の6度は長6度になっている。その前の3度は長3度になってテノールが半音の動きで済む。その手前はユニゾンに終止している。このユニゾンに至る3度は短3度になっている。長3度だと短3度よりもこのユニゾンに遠くなってしまうからだ。
と、次の和声に最も近い音程になるようにシャープやフラットが選択されている。
特に2小節目はテノールが増4度跳躍していてかなり異質な響きになるし、更にこのテノールのド♯の直後にカントゥスにシ♭が鳴るので、とても不安定な響きを醸し出すことになる。
もちろんこれは対位法の最もベースになるストラクチャの部分なので、ここから旋律を膨らませ、更に中世特有のシンコペーションによってタイミングをずらす等の技術を使って曲に仕上がっていくのだが、中世音楽にとってこのストラクチャというのは、作曲において常に重要なファクターであり続けたわけで、そこにこういった音の運びを持ってくる感覚というのは、逆に現代の私たちの目には目新しく映るかもしれない。
試みにこの譜例の旋律を膨らませコントラテノールを書き足した音源を添えてみる。
ストラクチャが当時のものそのままなので、少し膨らませるだけでそれっぽくなってしまう。中世の人々が楽曲のストラクチャを大切にしたのは、楽曲にとってストラクチャがその楽曲が如何なるものであるのかを決定付ける上で大きなウエイトを占めていた事を感じていたからではないかと思う。
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