2015/03/07

走れミニマ


さて、これは何の譜例でしょう。これだけで出所が分かるのはかなりの中世音楽好きですね。でもとても有名なフレーズなのです。

まあ勿体振っても鬱陶しいだけなのでネタばらしするとキプロス写本とも呼ばれている Torino J.II.9に収録されているJe prens d'amour noriture という曲のCantusの一部です。この曲はEn attendantを引用している楽曲群の一例で冒頭はPhilipoctus de Casertaが作曲した En attendant をほぼそのまま使っています。
もちろんそれだけでも興味深いわけですが、画像のように旋律なし、つまりリズムだけでもとても興味深い部分を含む作品なのです。答えを見る前にどんなリズムかちょっと考えてみてください。

ベースになるMensuraは Imperfect tempus/major prolationなので 6/8 に相当します。

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最初の黒3つはそのまま6/8で読みます。
次の赤符はsemibrevisが音価の1/3を失うことで(つまり付点4分音符が4分音符に)Imperfect tempusでBrevisが2分割されていたのが3つに分割されるようになります。この赤い音符5つ(1つ目はBrevis)で2小節分の長さになります。
続く8つのdragmaのグループはdragma*4 が minima*3に相当します。なのでこの8つでminima*6と同じなのでこれで1小節分になります。以前譜例の音源を羅列したTractatus figurarumに紹介されていたものとは用法が違いますね(こちら)。
つぎの赤minima*9は、赤くなることでそれぞれのminimaが音価を1/3減ぜられる、結果的に9つで通常の黒いminima*6と同じ音価になります。つまりこの9つで1小節分。
これは通常のsemiminimaなので、minimaの半分の音価。12個でbrevis*1と同じ音価になってこれで1小節。
次の赤semiminima*18はsemiminimaが赤くなることでそれぞれのsemiminimaが音価を1/3減ぜられて、結果的に18個で通常の黒いsemiminima*12と同じ音価におあります。つまりこの18個でbrevis*1と同じで1小節分。
最後に『4』という表示の後のminima*24は、つまり『4』が音価を1/4にせよという記号なので、ここのminima*4が通常のminima*1 に相当することになります。つまりbrevis*1はこのmensuraにおいてはminima*6なので、この『4』の表示の後のminima*24は通常minima*6と同等でありつまりbrevisと同じ音価になります。これで1小節分。

とまあちょっと解説を付けたのですが、それぞれの細々した説明というのは実はそれほど重要ではなくて、結果的にこの長いフレーズがどのような効果を持っているのかというのが最も興味深いところなのです。
上記のリズムを現代符に直すと以下のようになる。


    

定量記譜法を使って書かれたアチェレランド、つまり加速ですね。ここまで大規模にそしてある意味露骨にそれが示されている例は珍しいと思います。

楽曲を分析するというのはそこにパッケージされているメッセージを読み取るという作業だと思っています。この楽曲は当時の楽曲がこのような速度に関わるメッセージをも含んでいる可能性があるということを、分かりやすく示してくれています。


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