2016/01/21

エレガントな回答

以前、平行5度を回避していく記事を書いたのだけど(ココ)、今度バルセロナで企画しているコンサートで扱う予定の楽曲の中に、短いフレーズながらとってもエレガントな例を見つけたので忘備録的にここで記事にしておく。

お題は Sur toute fleur (Torino J.II.9, f.137) からCMMの楽譜で41小節目の後半から44小節までのCantusとTenor。

原曲をシンプルな形に還元したところから考えてみる。これをどう料理してくれようか。

リンク先の記事でも書いた簡単な平行5度の避け方は5-3-5-3-5....にして平行を隠してしまうという方法。ここでも使ってみる。
これで2番目の音から始まっていた下降する平行5度は実際のところかなり聞こえなくなる。

ここで出だしの上行する平行5度を同じ音型で消そうとすると
赤く囲ったところが時間的にかぶってしまいます。
さてどうしよう。。。ここでこれを問題と捉えずリズムで遊ぶきっかけとして捉えてみる。
リズムを2拍子系に変更し終止音前のCも8分音符分遅らせる。
さてここで「?」のところに何が入るか。
一番順当なのはEでしょう。リンク先にも書いたけれど、 順次進行で下行するTenorに対してCantusがリズムを遅らせると6度が発生して平行5度がスムーズに隠れてくれる。しかもここはフレーズ全体が3度の跳躍によって形作られているのでその全体像を破損しないで済む。更に原曲では出だしのTenorも更に2度下から開始してストラクチャの平行が更に聞こえなくなっている。
これで原曲にたどり着きました。
この短いフレーズに平行5度を隠す手法が2つ (5-3-5-3-5, 5-6-5-6-5)放り込まれていて、しかもそれらはリズムの遊びによってさらに不可視化されている。
これはとってもエレガントな回答だと思うのです。

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この先は奏者に任されている(と私は考える)チョイスについて。

最後に挿入したEをフラットにするか、そのままナチュラルにするか。

Eがナチュラルのままだと、E-D-B♭という旋律が増4度を形成してしまう。個人的には問題だとは思わないけれど(ルネサンスの対位法だと禁則)、気になる場合もあるかもしれない。これを解決するためにB♭をB♮に変更するという手もあるけれど、F-Cのカデンツが突然現れる印象だし直後に来るDフリジアのカデンツの印象が薄れてしまう。

4つめの譜例を見ると分かるが、今話題にしているEの直前の3度の跳躍は時間的に前倒しされていて、逆にEの直後の3度の跳躍はより後ろに配置されている。結果的に旋律が前後両側に引っ張られた結果このEが入る時間的隙間ができていると考えることもできる。この前後に引っ張られてできた隙間という感覚は、奏者の側からするとかなりはっきりと感じられる(ストラクチャを理解していると猶更強く)。その場合このEはTenorのAに対して配置されているというよりも、次のCantusのDに対するアポジャトゥーラ的な音に認識され、ナチュラルのままにするかフラットにするか、この部分を取り出した時に明確な判断基準がなくなってしまう。このとき、フレーズ全体がDフリジアの終止に向かっていることを鑑みれば、このEをフラットにするのは奏者の感覚からすると十分にあり得る選択肢だと考える。

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